宝石少女と男子高校生

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しかし、この説明だけでは美裕を納得させるだけの効力が無い。少女は何故追われていたのか、どうして少女を連れ帰って来ているのか、一件の核心をつく事柄についてはほとんど触れられてなかったからだ。 当然、美裕がその点を見逃すはずも無く、少女が追われていた理由について続けて問う。先ほど説明を行った和樹相手ではなく、その右斜め後ろに立ったままの少女に対して。 美裕の問いに対し、少女は口を開くことが出来なかった。 自身が考え無しに二人の会話に割り込んでしまったのは迂闊であったとは、この時の少女には理解できていたし、そこを和樹が庇ってくれたことも分かっていた。しかし、そのための作り話に対し、即座に対応出来るほどの思考の柔軟さが彼女には無かったのだ。 「そ、それは……」 必死に思考を巡らせるが、それらしき答えは見つからない。 助けを求めるように和樹の方へと視線を移すが、彼の表情も硬く、俯いているままだ。しかし、彼の背中からは、その意思を感じ取れる……『何とか頼む』という叫びを。 「そ、それが私、事の経緯を全く覚えてなくて……」 『記憶喪失』。 浮遊男との一件や彼女が持つ能力のことについて、和樹は隠していたいといった様子だ。だからこそ、あまりにも強引な策であることは分かりながらも、この手段しか少女には思いつかなかった。 それに、記憶を失っていることにしてしまえば、これ以上の追及も難しいはずと、僅かな期待にかけたいという思いもあるのも確かだ。
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