宝石少女と男子高校生

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「経緯を覚えていないって、それはどうなの。見覚えのある人だったとか、和樹のように巻き添えになったとか、何かしらハッキリしてることはあるんじゃないの?」 少女が絞り出した答えは、どうやら愚策に終わってしまったらしい。結果として、美裕の瞳に浮かぶ疑心の色を強めただけであり、突破口は見つからないままだ。 またやってしまったと肩を落とそうとした少女であったが、それよりも僅かに早く和樹の口が開く。 「ど、どちらかと言えば記憶が混濁してるのかも。それだけ逃げることに必死だったってことだよ、な?」 同意を求めるように少女の方へと振り返った和樹に対し、少女は二度頷いてみせる。 しかし、その光景を眺めていた美裕が次に言い放った言葉は、二人の思考を完全に停止させることになる。 「はぁ……もう良い、分かった。話せないことがあるならそれでも良い。でも、もう嘘に嘘を重ねるのはやめてちょうだい」 そう言う美裕の瞳には、先ほどまでの疑心の色は一切なく、残っているのは哀しげな感情そのものだった。 真実を語ろうとしなければ、必ず話のどこかに綻びが生まれる。そもそも、かなり無理のある話の設定、繋げ方であったことに加え、事前の打ち合わせすらもしていない。 はじめから、この話には綻びだらけだったというわけだ。
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