宝石少女と男子高校生

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『母は強し』という言葉があるが、まさにこのことなのだろう。 これ以上、誤魔化そうと奔走するのは、この状況をより悪化させるだけであり、何より実の母に嘘をつき続けるのは和樹にとっても辛いものであった。 きっかけを作ってしまったとはいえ、この少女としても同じ気持ちであった。 「すみませんでした、お母様……」 結局、今回の一件については美裕に伝わることとなった。ただ、少女が指輪に形状を変質させることと、不思議な能力のことだけは除く形とした。 少女の記憶が欠けていることについても、そのまま引き継ぐことになったが、こちらは嘘ではなく正しい認識として違いはない。 幼い頃の記憶は朧気にはあるものの、一件の最中に目覚めるまでの記憶はほとんど無いという説明は帰宅直後に聞いていたからだ。 しかし、ここからがどう伝えれば良いのか。 『少女が和樹のもとへと来た理由』。それは、彼女の幼少期に、和樹と共に生きるよう何処の誰かが言っていたとのことだったが、理由として説得力のあるものでないだろう。 頭を悩ませる和樹であったが、その心情を知ってか知らずか、少女は美裕に向かって口を開いた。 「私は長い間眠っているような状態でした……ただ、記憶の中にはしっかりと、和樹の名前が残っていたんです。ぼんやりとではありますが、私を育ててくれた人が、和樹と共にいるように教えてくれました」 今度は正直に伝えたい。伝えて、信じてもらいたいという思いからか、少女の口調は無意識のうちに速まる。同時に速まる胸の鼓動を落ち着かせるように、少女は一度、息をゆっくりと吸い込み続ける。
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