53人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ
「だから、会いに来たんです。この記憶を信じて、ずっと想い続けてきた人のもとに」
今度の彼女の言葉に嘘は無い。
少女の瞳からは、それがよく伝わってくる。そう感じながらも、美裕にはどう返してよいのか分からなかった。
"あなたの息子……和樹君が、大きくなって、水色の髪の女の子を連れてきた時はね、面倒を見てあげてほしいの"
美裕からしてみれば、10年ほど前の話。とある友人から、突如言われた言葉を今になって思い出していたからだ。
当時は何のことを話しているのかなど分からず、気にも留めていなかった美裕であったが、この状況に置かれたことで、ようやく意味のある言葉であったのだと理解した。
「あなた、名前は?」
唐突な問いではあったが、事実、和樹でさえこの少女の名前は把握していない。何故、このタイミングであったのか分からないが、先刻の少女の言葉から、何か得られたものがあった様子であるのは見て取れた。
美裕の問いに対し、少女は迷いの無い瞳で答える。
「私の名前は、"アクアマリン"です」
最初のコメントを投稿しよう!