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『アクアマリン』
和樹の身を護るために使用された水の力。それに相応しい宝石の名が少女の口から発せられた。
「アクアマリン…それって本名?宝石の名前よね」
美裕が鋭く返す。だが、先程までの訝しげな目の色は消えており、真剣な眼差しを目の前の少女に向けている。
向かい合う2人の姿を横目に捉えながら、和樹は少女が何故そのような返答をしたのかを考えていた。
少女の姿へと変化したあの指輪。その中心に填められていたあの宝石…それがアクアマリンという種類の宝石だったのであろう。しかし、この少女は今の姿を自身の本来の姿と言っていた。
おそらく、少女には人としての名が付けられていないのだろう。それ故に、唯一知り得る自身の宝石としての名前を答えた…
「母さん。多分だけど、その子に名前は無いんだと思う」
和樹は、自身の思考が全て正しいという確証を何一つ持ち得ていなかったが、それを前提として会話に割り込む。
彼の言葉に対し美裕は口を開くことはなかったが、表情は明らかに動揺していた。
この2人のやり取りを見ていた少女も、自身が美裕の求めていた返答をしていなかったことに気がついたのだろう。慌てた様子で唇をきゅっと結んでいる。
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