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「和樹の言っていることは本当なの?」
三度、少女に対する美裕の問が入る。
少女は俯いたまま何度か頭を縦に振った後、勢いよく顔を上げたかと思えば、食いつくように口を開いた。
「ほ、本当です。すみません、私…質問の意味をしっかり分かっていなくて」
「そう…それじゃ、名前を付けてあげないとね」
再び俯く少女に対し、美裕が返した言葉は意外なものだった。
この少女の実情に探りを入れるものかと考えていた和樹も思わず目を見開く。それは、すぐ隣にいる少女も同様だった。顔は俯けたままだが、目だけでなく口もぽかんと開いている。
一瞬、沈黙が流れるが、美裕が続けて口を開く。
「この子自身が詳しいことを何も覚えてないんじゃどうしょうもないじゃないの。それに、帰る場所も分からないなら面倒もみてあげなくちゃ…それなら、名前もないと不便でしょ?」
随分と大胆な提案だった。
傷だらけになった息子と、息子の衣服を身にまとった見知らぬ少女…明らかに異様な光景を目の当たりにし、少女の存在を訝しげに見ていた美裕が、この不十分極まりないやり取りの中で出した答えだったからだ。
少女のことをこれ以上詮索するだけでなく、その上でこの家で面倒まで…人が急に変わったかなような状況に、和樹の動揺は更に強まる。
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