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周囲から虚言癖があるような印象を与えるくらいならば、いっそのこと500円であの指輪を買っておくべきだったか。と、しても意味もないであろう後悔の念を抱きながら、和樹は昼食前に購入していたホットドッグの端にかぶりついた。
「まぁ、たった一度の遅刻なんだし、そんなに気にすることないじゃない。それに、さっきの和樹の話が本当だったとして、そのおじさん、相当力強かったんでしょ?それなら、インドア平凡主義者の和樹に振りほどかれたくらいで怪我なんてしないだろうし、どうってことないって」
1分ばかりのわずかな静寂の後に、最初に口を
開いたのは香織の方だった。
"インドア平凡主義者"なる異名を付けられていた事実に、衝撃と何とも言えぬ悲しみを覚えながらも、和樹は目の前の少女の言葉に耳を傾ける。
彼女の表情を見る限り、どうやら今朝の一件について真剣に考えてくれているらしい。
和樹は生まれてこの方、大きな嘘はついた記憶がない。あったとしても、お化けを見ただとか、ツチノコを見つけただとか、そんな子供らしいものくらいだ。
言い訳する際に用いるような嘘についてはどうも苦手であり、表情にも出てしまうことから、これまでも何か誤魔化したいとは思っても、正直に話してきていることがほとんどであったからだ。
11年近く、和樹の傍で過ごしてきた香織には、そんな彼の性分を十分に理解できていた。
そのため、全て真実だとは受け止めることは出来ないが、彼が嘘をついてまで言い訳をしているようにも香織には思えなかった。
「さっきの話、もう他の人には話さない方が良いわ。全部は信じてあげられる訳じゃないけど、和樹は嘘をつかない人だって私は分かってる。晃大だってきっとそう」
香織は一瞬言葉を止めたが、和樹の目を見つめながら小さく息を呑み込み、少し恥ずかしげな表情で続けた。
「この件に限らず、この学校には最低でも和樹の味方は二人いる。それで良いじゃない?だから、もうこのことは忘れましょう」
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