宝石少女と男子高校生

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確かに、今の状況は和樹にとっては好ましくなかった。あの一件から一週間が経過した今、多少ほとぼりは冷めてきたとはいえ、一部の生徒からは奇怪な目で見られることがある。 噂は伝わるうちに、その形を変えていく。おそらく彼らの耳には、事実とは全く異なる形で情報が伝わってしまったのだろう。 「噂が流れてしまったものは仕方がないんだ…事態が落ち着くのを待つよ。75日も待ってやれる自信はないけどな」 『人の噂もなんとやら』だ。そう諦めるしかない。そう思うことで、和樹は学友に対し普段通りに接することが出来た。内心、相手にどう思われているだろうかと、不安を覚えてはいたが。 和樹の言葉を聞いて、香織の顔には柔らかな笑みが浮かぶ。その左隣で、この数分のうちにカップ麺をほとんど食べきったらしい晃大は、まだ口内に残っていたそれを一気に飲み込み、その口を開いた。 「まぁ、信じがたい話ではあるけどさ、和樹がそう言うんだ、きっと本当の事なんだろう。次にそのじーさん見つけた時はしっかり写真撮っておけよ?したら、俺が学校中にお前の潔白を証明してやるさ」 そう言うと、器に少量残っていたスープを一気に飲み干した彼は、和樹たち二人に手を振り教室を出ていった。 急に飛ばしていった晃大の行動を不思議に思いながら、和樹と香織はお互いに顔を見合せ、同時に黒板上部に掛けられている時計の方へと視線を移した。 そこにある時計の長針は"5"を指している。昼休みは午後1:30まで…つまりはそういうことだった。 「そういえば、あいつ…話の最中もしっかり飯食ってたもんな」 和樹は右手に持ったジャムパンを一気に頬張り、香織は諦めの表情を浮かべながら、食後に頂く予定であったのだろう飲料ゼリーへと手を伸ばした。
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