Honey Baby

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「あ…っ」 桜吹雪に目を奪われてふと見上げた視線のその先に、あるはずのない人の姿を見つけて驚愕した。 忘れるはずもないあの端正な横顔は、あの時よりも少しだけおとなびて見えて緊張が走る。 (あ…お礼…言わなきゃ) そう思って一歩を踏み出そうとはするが、何故か躊躇われて足が動かない。 (でも…覚えてなかった…ら?迷惑がられた…ら?) 自分が一方的に恩義を感じているだけなのだから、いきなり話し掛けたら変な奴だと思われるかもしれない。 それが怖くてその場で固まってしまうとふと彼がこちらを振り返った。 (!?) 「一年?」 よく通る低い声にどきどきしながらこくりと頷けば 「集合かかってる」 と体育館を指差された。 「あの…っ」 ありがとうと言おうとしたが彼はそのまますたすたと歩いて行ってしまった。 一度ならず二度までも、お礼を言えない自分に情けなさを感じながら、しかし今回はまだチャンスがあると前向きに考えることにした。 あの時とは違う。名前も知らなかったあの時とは状況が違う。 同じ学校に通えるということだけでも奇跡に近いはずだ。 だから今度こそお礼を…そんな気持ちを新たに心に刻むと開け放たれた体育館へ彼の後を追うように滑り込んだ。
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