Honey Baby

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中学三年の夏休み。ギラギラと照りつける太陽の下、深雪は夏休みの写生をやりに学校へ来ていた。 得意とまではいかないまでも、絵を描くことは好きだったので苦ではない。 だが、この暑さにだけはへとへとと疲れてしまっていた。 クーラーの効いた室内でやれば良かったのだが、深雪のお気に入りの場所は裏庭の小さな花壇で、日が直接当たらないにしても暑い場所だった。 帽子代わりにタオルを被せてせっせと作業したおかげで、午前中であらかた終えてしまった。 すると、静かだった裏庭にガサガサという大きな音が響く。 ガゥッという声にびっくりして振向くと、校舎の奥からこちらに向かって猛スピードで駆けてくるものが見えた。 暑さで乾いた土からは煙が立ちのぼり辺りが薄く茶色に染まる。その土煙の中から黒い固まりがビュンっと飛び出してきたのだ。 「うわっ」 慌ててスケッチブックを胸に抱えて逃げ出した深雪めがけて、なおもその物体は迫ってくる。 「な、なに?」 キラリと首筋に光るものが見え、その凶悪な顔にはたと思い当たった。 この近所に住む格好だけがきらびやかなオバさんが飼っている名前だけはゴージャスな迷惑犬エリザベスだ。 もとより足が速いわけではない深雪が追い付かれるのは時間の問題で、それでも必死になって逃げ回る内に、校舎からはどんどんと遠ざかってしまう。 (あ…校舎に入って…鍵かければよかった…) と思っても後の祭り。どんどんと距離を詰められて深雪は焦り、格技場の脇を通ったところで転んでしまう。 本日は対外試合が行われているため、格技場の外にも靴がたくさん脱ぎ散らかされていた。 その一つに躓いてバランスを崩し、派手に転んでしまったのだ。 擦りむいた肘や膝はもちろん痛いが、ぐるるるるるっと威嚇の声がすぐ近くでした時の恐怖と言ったらないだろう。
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