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(いいなぁ。僕もあんな風だったらきっと…)
エリザベスにも一人で立ち向かえただろうし、こんなつまらない怪我だって負っていなかっただろう。
(格好よかったなぁあの人。僕…ほんと情けない)
じわりと目に浮かんでしまった涙をごしごしとこすって拭うと、すっと黒い影が落ちた。
「おい」
パッと顔を上げるとそこにはさっきの少年がいて、綺麗に畳まれたハンカチを持っていた。
「痛いのか?」
ぐいっと腕をとられて彼の目の前に傷口がさらされる。ピクリと動いてしかめた顔に、彼はすっと腕を離すと水道の蛇口を捻ってそのハンカチをざばざばと濡らす。
靴と靴下を取り払われて、ズボンを膝まで捲るように言われる。
そんなことをしてもらうわけにはいかないし、自分でできるといっても彼は聞く耳持たずで早くしろと言わんばかりに睨みつけてくる。
おずおずと言う通りにすると、後は無言で傷口を洗い流してくれた。
痛みに目をぎゅっとつぶったまま耐えていると、水の音しか聞こえなくなってくる。
「目、開けろ」
その声に反応しておそるおそる目を開けると、先ほどから全く表情の変わらない彼の視線とぶつかった。
(!?)
どきっとしてしまったことを悟られなくなくて慌てて目を伏せると、他に痛むところはないかと聞かれる。
ふるふると首を振ることしかできず視線を合わせようとしない深雪に訝しがることもなく、それならばと彼は立ち去ろうとした。
ハッとして深雪がお礼を言おうと口を開きかけると。格技場の中から慌てて一人の男の子が飛び出してきた。
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