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「いや友達っつうか……」
「いま何か話してただろ」
歯切れの悪い山口に対し、苛立った様子のガキの声と視線が俺の体に落ちると、――ゾクッと神経を震わせる。
「月くん終わったんすか?」
「ケンタの友達じゃねーの?」
「うお?!ひでーな月くん蹴り強えっ」
「うるっせーな黙れケンタ」
俺なんか眼中に無いガキが薄く笑うと山口に蹴りを入れる。
興味なさげに高天原の屑共に向かってボコった奴を物のように乱雑に投げ飛ばした。
「っ……んっ」
フワッと体に掛けられた冷気を遮断するモノ。体温の残るモノから漂う血の匂いと、それを掻き消すホワイトムスクの香りが体に落ちた。
「っっ……?」
「これ着てろ」
無造作に脱ぎ捨てた黒のジャージの下から現れた柔らかそうな黒いニット。そこから見える白く浮かび上がった鎖骨。――無意識に喉がひくついた。
「あ……っ痛……、ぅうっ!?」
強い風が吹いた途端、乾いた衣擦れの音がして、傷口を軽く擦られただけで呻き声が洩れた。
「大丈夫か?」
無様な格好の俺を覆い隠してくれたんだって事を追いつかない頭が理解した。……こいつ自分のジャージを俺に?
寒空の下、長時間好き勝手に弄ばれたうえ上半身裸同然だった俺は、ぶっきらぼうなガキの思いがけない優しさに涙が出そうになる。
「きったねー面」
……前言撤回だ。すげえムカつくガキ!
痛みで眉をしかめた俺を見下ろして面白そうに笑うガキの顔が鮮明に見えたと感じた瞬間。
「うるせーな」
突如として路地裏に轟音が響き渡った。
「なんだありゃ」
「ケンタてめーが停めてこい」
「月くんムチャ言わないでくださいよー」
「冗談だバーカ」
不自然に蛇行する車のヘッドライトが俺らの方に来るのが見えた。
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