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「うお?!あっぶねーなんだありゃ」
俺を取り囲んでいた高天原の畜生共の人垣が山口のせいですっかり割れた。間近に迫り来る不審車両の動きが良く見える。それは運転経験の無い俺にさえ危険だと感じさせる、酷く危なっかしいモノだった。
「ちょ、マジこえーっ!」
マフラーを直管にでも改造しているのか、純正とは思えないエンジンの重低音が山口のデカい叫び声を容易に掻き消す。
「チッ整備不良か……馬鹿が」
黒ニットのガキの声が、こんな異常な状況にも関わらずクリアな音程で耳に飛び込んで――俺の視線を誘う。
「……っ」
呆れたみてえに頭を振り、血で濡れた髪を鬱陶しそうに掻き上げるガキの顔から目が離せなくて……そんな自分に心底参っちまってた。
……何だよこれ。胸が苦しい。
車のライトに照らされた横顔を純粋に綺麗だと思った。
「ちょ、月くんアレやばくねーすか!?」
「あ?なにが」
「何がって……マジすか」
狭い路地をハイビームで走行する車はライトの位置からセダンに見えた。暗闇に溶ける車体は黒だと思う。物凄いスピードで何の迷いも無く蛇行を繰り返す。今にも轢き殺しそうな勢いで走行する車は、俺らの元へと近付くにつれ――。
「おいおい……冗談だろっ?!」
――いっきに加速した。
「「「「「「「「!?」」」」」」」」
腰を抜かして路上にへたり込む高天原の糞ったれ共の前で急ブレーキを踏み込んだ車体が大きくケツを振る。
「チッ、馬鹿が……」
「は、はははは……」
乾いた笑いを零し立ち尽くす山口の体ギリギリで車体を斜めに被せた暴走車は、ようやく停止した。
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