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「ああっ!チョーさみぃー!パワフルウィンドウズがブッ壊れるとかマジありえねぇー!」
窓全開の運転席はいかにも不自然だった。派手な髪の男がガックリとうなだれているのが見える。
……てめえの運転技術がありえねえから。
“本職さん”に特攻かけられたのかと本気で錯覚しちまった黒塗りの車体は、なぜか泥に塗れていた。相変わらずハイビームのままエンジンをかけっぱなしの車は、ワイパーが最大最高速度で雨も降ってねえのにフロントガラスを往復してやがる始末。ついでにウォッシャー液を撒き散らしながらだ。
「エアコンもブッ壊れるとかマジさいあくー!ああっ!チョーさみぃー!」
ハンドルを握ったまま額をぶつけて喚く派手髪野郎は、これまた改造してあるらしいホーンを頭突きで鳴らした。至近距離からグリルを震わせる鳴り止まないクラクションにクラクラと脳が揺れる。
「「「「「「「「……」」」」」」」」
こんな絶好の機会なのに逃げるどころか完全に戦意喪失する粕共の気持ちは分からないでもない。圧倒的な存在感に壁際まで追い込まれ無言で座り込む腑抜けた面を晒す高天原に対して変な笑いが込み上げた。
「おいコラ華てめー人を殺す気か?」
「お疲れさまでっす。華くんそれってもしかしてパワーウィンドウのコトすか?うわっちゃー。完ぺきイッちゃってますねーっつうか車汚っ!」
……何だ。こいつら知り合いかよ。
暴走車が突っ込んで来た時には全く避ける素振りを見せなかったガキが、運転席側につかつかと回り込む。飛び散るウォッシャー液を冷たい視線で見下ろすと、中の派手髪野郎に呆れた口調で話しかける。山口も、その後に続いて親しげながらも失礼な挨拶をする。
「ハァ?!兄貴にケンタ?てか、んなトコでなにしてんのー?」
のんびりとした派手髪野郎の色気垂れ流しの声音が俺に何かを考えさせた時、助手席のドアが弱々しく開いた。
「華くん運転クソ下手っすね……やっべ吐く」
黒いスーツを着込んだ金髪ソフトモヒカンの男が具合悪そうに降りて来る。
「ハァ?てめぇいま俺に喧嘩売った?おい待てコラ。いますぐブッ殺してやる」
派手髪野郎がシートベルトを引きちぎる勢いで外すと、乱暴にドアを閉めた。
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