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「俺そんなに運転へたくそだったのー?」
……下手なんてレベルじゃねえよ。
耳障りのやたらと良い怒鳴り声の持ち主が、どうやらエンジンを切れないらしいイカレた轟音を撒き散らし続ける車を忌々しそうに蹴りつける。よっぽど納得がいかなかったのか派手に染め上げた髪を不満げに掻き毟った。
「すんません華くん運転下手っていうより下手な上に荒いっ……やべ気持ちわりー……まじ吐く」
フラフラとした足取りで口を押さえて歩き出した男はヒラヒラと手のひらを振りながら「華くん」と呼んだ男を具合悪そうにあしらう。ハッと我に返った様相の高天原の粕を何人か踏み潰すと、すっかり崩れた輪の中へと無遠慮に入り込む。
「は、きっつ」
転がった俺のすぐ近くの壁に寄りかかる男の青ざめた表情を車のライトが照らす。
「華くんに運転させんじゃなかった……はー、っ気持ち悪、おえっ!」
……こいつの顔、俺見た事ある。
相変わらず具合の悪そうな男の妖艶とも言える輪郭を潰れかけた目でなぞった。
「ァア"?!うるせぇっ!だいたいてめぇがビールあんなに飲むから悪ぃんだろうが!俺の全開の『じつりき』はこんなモンじゃねぇからな?マリカ俺チョーとくいなのにおかしいなあー!てか、なんか前がぜんぜん見えなかったー!」
不思議な既視感に捕らわれながら金髪男を見上げていた俺の思考をかっ攫う音声。派手髪野郎が支離滅裂な事を喚き散らすと、同じく高天原の屑を何人か蹴散らし金髪男の後を追う。
「華くんなにから突っ込めばいいか俺分かんねー……はい?ショウタさんっ?!」
「うっせケンタ……話しかけんな吐くぞ」
「すいませんショウタさんっ!それだけはカンベンっす!」
「ぐっ、ああ"ぁぁあ"――」
「てめーらがうるさいから俺が怒られちゃったじゃーん……どうしてくれんのこれ」
ヘラヘラと豪快に笑う山口も地面に這いつくばった下衆を蹴り上げると壁に寄りかかった。
「おいショウタてめ吐くならこいつらにかけてやれよ」
形勢逆転を短く告げる異様な声を持つガキが――冗談っぽい口調ながら底無しの寒気を感じさせる笑みを小さく浮かべていた。
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