プロローグ 歪み 果てるまで

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だから、佐木下が苛立ち混じりに拳銃の使用を引き合いに出したのは概ね彼の責任である。  必要とされないなら、過度な武力は却って抑止力以上の混乱を招くと。署内の保管を要請したのは概ね間違いではないと多くの私服警官がそう認識する通り、彼もそう認識していた。  こんな事件を追う必要が無いならば。  或いはその選択は間違いではなかったのだが、異常事態を認識しようとしなかったのは彼の怠慢ではなく、平和であった片田舎に似つかわしくない中流層の為の都会である、この街の生むゆったりとした認識の毒にこそあったとしたら、どうだ。今更に、それを責める気にはなれまいが。  ゆったりとしたブレーキングから音もなく静止した白黒の軽乗用車……警察の存在証明(パトライト)が闇を裂いて廃屋を照らしだす。  二人は腰元から特殊警棒を引きぬき、正面の廃墟へと小走りで前進。  佐木下ではないが、この時清一は間違いなく、部下ごと巻き込んだ自分の慢心に心からの舌打ちを隠さない。漂う気配が、瘴気にも似て彼の直感を殴打するのだから当然か。
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