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扉に身を寄せ、ドアノブが破壊されていたことに気付くや否や、急ぎそれを蹴り開ける。
「血?」
「怪我して歩きながらここに来た、ってんなら少ねえな。止血しねえのは不自然な量だ」
寧ろ、自然に止まらないのが不自然という見方も出来るが、外にも無いそれが唐突に現れたことこそ疑念でしかない。
ガタン、と盛大な瓦礫の音に二人が振り返ると、わざとらしく崩れた家屋の一部が月明かりを透過し、その場に力なく倒れる人影を映しだす。
「お……」
「救急車呼べ! ガイ者から眼ぇ離すんじゃ無えぞ! 俺は」
奥に、と叫ぼうとした清一は、瓦礫と一緒に眼前に舞い降りた一枚の紙片を凝視する。
木の葉か何かのように優雅さを失わず舞い降りたそれの正体は、思考するまでもない。黄金比を保った長方形、片手に収まる硬質な感触のそれは警察手帳(そんざいしょうめい)と同じくらい雄弁な。
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