プロローグ 歪み 果てるまで

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『奴』に体を預けるということは、こういうことだ。  自分で管理できない痛みが、自分の限界を超えた代償が、自分でいる時気付かされる。  不便だ。  だが、無意味ではない。  仮に、自分と『奴』との対応力の差を考えれば彼女を救ってやることなど出来なかっただろうことは容易に想像できる。  榊啓人(さかき けいと)では出来ない戦い方がある。『奴』に預けた体だからできる戦い方がある。  だから私は、命のひとつくらい『他者』に預けられる程度には、自己犠牲に身をやつして ――啓人は優しいから。 ――だから、きらい。 「っ、う゛、え゛ぇァッ……!」  迫り上がる胃液と内容物が喉を衝く。  脳に手を突っ込まれてかき回され、過去も未来も一緒くたにされた不快感が駆け巡る。  蓋をしていたものが少し揺れただけでこれか。足の痛みや腕の違和感など比べ物にならない不快感。
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