プロローグ 歪み 果てるまで

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 地面に伏せる。 自らの吐瀉物を舐めとってしまいそうなほど地に近付けた顔が、口元が、だらしなく開いているのがよくわかる。  狗の様だと自虐的になり、事実その通りじゃないか、と冷静な目で見ている自分自身が居る。  何者かの狗であることを選んだ癖に、誰よりもそれを見せたくない相手がいて。  何処かできちんと壊れてしまっている自分を理解しようとしないなど、なんと滑稽なことだろう。  だが、それでいいとも思っている。  滑稽で下らなくてたった一人の存在が、確かに一人分の人生を終わらせることができたのだから。  ぐ、と上げた視界には、弓張月が浮かんでいる。  げ、ともけ、とも聞こえただろう奇怪な笑いが己の喉から発されたことはぞっとしない事実だったが。  それでも明日も、生きていられる幸せは贅沢なのかもしれない、と。  地を蹴って、バランスを崩し蹈鞴を踏んでもう一歩、宙を掻くように手を伸ばす。  届かないものがあることを知っているから、私は。それでも。
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