一節 我が心は氷の間に降り来たらば

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 明らかに、壁を蹴って落着するまでの一瞬は自分の意識が、意思が、存在していなかったことに薄々ながら気付いている。 『誰か』に操られるままだったということ。操った相手の本質は、自分を生かす為に在ったということ。  そして、自分はその意思を既に内包しているという事実。  夕焼けが紫に変わっていく空を見上げる。人影はもう無く、ただ『もう一人』を自覚するまでに20秒。  思えば、それが始まりだったのかもしれない。 ●  目を覚ます。  昼夜の別のない仕事である以上、朝日を浴びて一日を始めるのが心地よい時もあれば、その逆もよくある話。  なので、窓もなく光も遮断した暗室を好んで使うようにしている。  お陰で安眠は保証されているが、時間感覚に乏しくなるのが玉に瑕。  腕時計のバックライトで、時間を把握するまでは『起床した』とはいえないのが悲しいところだ。
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