一節 我が心は氷の間に降り来たらば

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 体を起こし、軽く顔を上げればそこには神棚がある。供えられた榊の葉がくすんできたので、買い換える時期だ。  とは言え、神棚に手を伸ばすには先ずその身のひとつ、清めなければ意味が無い……の、だが。 「……電話?」  暗室に目が慣れ、僅かに隙間から差し込む陽光でまだ昼間であることを理解した私は、まだ自分の耳が眠りから覚めていないのではないか、と首をひねる。  携帯電話という便利なツールが普及し始めて久しい昨今、『事務所』の電話を鳴らす相手などめっきり減ってしまっていた 。 ……そう、事務所である。  亜風里の中心市街地からそこそこに離れた雑居ビルの2階の一室は、『自称』探偵事務所の事務所であり、私の生活拠点でもある。 当然、本格的な私生活を行う場は別にあるのだが、本当に便宜上、時折体をしっかり休める為にあるような場所でしか無いので、専ら寝泊まりはここになってしまっていた。
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