一節 我が心は氷の間に降り来たらば

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 自称、とは言っても当然のように認可を受けて開業しているし、それなりの苦労はしている。 探偵と名乗るには、平凡な部類だから――否、それは今、殊更に関係ない。  固定電話に態々連絡を入れてくる類の人間が自分について詳しいとも、友好的であるとも思えないのは何しろ、その連絡先を知る手段がごくごく限られているからである。  体を起こし、電話機がある事務机まで動くのだけで大分億劫なのだが……鳴り止まないものに文句を言っても仕方がない。 「はい、こちら――」 「サカキ、ケイト」  名乗る前に、その名を呼ばれた。重苦しい、重厚な年月を感じさせる男性の声は恐らく50絡み。 威圧する意図はないだろうが、そう「なってしまう」重みが声には篭められている。何処と無く名前の呼び方が硬いが。 「……そういう読みで、違い無いな?」
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