一節 我が心は氷の間に降り来たらば

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 飲み込め、という声が聞こえるが早いか、私は保留のボタンを押していた。  ぐぐ、と体を反らし、思考と意識を地の底に落とすように沈めようとする。  ブレインストーミング、と言えば格好は付く。横文字だからだ。  だが、私がその言葉を意識する場合、『混ぜっ返すほどに面倒な同居人』が脳内でひっくり返しているのでもなければ、事情が理解できないような事態が起きているのだから笑えない。  笑えない、というか。 ――ああ。それは『私の』だ。  その声が聞こえた瞬間、目いっぱいに反らせていた頭は発条仕掛けもかくやと言わんばかりの勢いで頭部を事務机に叩きつける。  ほぼ、無意識に。斯くして意識的に。 ――『榊啓人』は『彼』へと意識を明け渡す。  薄れた意識の片隅で、上がった電話機がチラリと見えた。
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