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以下日記の内容
7月10日、高い金を払って、腕利きの職人を雇った甲斐があった。奴は変わり者で、非常に食えない男だったが、館さえ完成すれば良いのだ。金を渡して奴は満足するだろう。今回の結果には私も満足している。まさに御手洗家の繁栄を象徴する豪邸で、夕闇町には不釣り合いかも知れない。
7月16日、あの偏屈な男が余計なことをしてくれた。館の中にどうでも良いカラクリをいくつも造りおった。こんな物が何の役に立つというのか。
7月16日、先程の発言だが撤回してやっても良い。実に素晴らしいアイデアを思い付いたのだ。この館のせいで、娘も孫も逃げちまったが、これで寂しくないぞ。
7月26日、もうすぐ夏休みだ。ワシには全く関係のない話だが、今回だけは特別だ。夏休みが待ち遠しい。
8月1日、毎日が楽しくて仕方がない。家族はいなくなったが、その代わりがいるのだから、最早寂しさは微塵も感じない。毎日町の若い娘を館に呼んでの豪遊。こんなことができるのは、日本広しといっても、恐らくワシだけだろう。
8月12日、少し飲みすぎた。最近は毎日酒を飲んでいるので、喉の辺りが焼け付くように痛い。その上、胃腸ももたれ気味で、少々年甲斐がなかったかもな。
8月24日、おかしい。館の中を黒いレインコートを着た実体のない人影のようなものが闊歩している。それもずっとではなく、出たり消えたり、全く気味が悪いわい。変な霊にでも祟れたかな。
8月31日、黒い人影がワシの寝室にまで現れおった。ワシが寝ていた時に、枕元に立って、ワシの顔をじっと見つめていた。
9月1日、流石に我慢の限界が来た。警察を呼んで、館の中を隈なく調べさせた。しかし、今日に限って奴は現れなかった。ずる賢い奴だ。
9月3日、朝起きたら口の中に泥のような苦い味が広がっていた。黒い人影はワシの館から出て行く気つもりはないらしい。
9月4日、黒い人影がずっといる。
ここから先の字は、強い力で殴り書きされていて、解読不可能だった。
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