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頭の周りにまとわりつく枝葉をかき分けて視界を開くと、そこにはやはり先ほどの本がある。
「ねぇ和樹、もうこのくだり飽きたんだけど・・・。本はいいから帰らない?」
さすがにくどく感じた僕は隣の和樹を見るが、当の本人は耳に入らないほど何かをじっと見つめていた。
「なに見てんのさ」
視線の先をたどると、行き着いたのは一本の大木だった。いつも僕が愛用している読書の特等席だ。知らなかった、こんな所から見えるのか。
和樹は俺に視線を向けながら、小さな声で話す。
「お前見えるか・・・?」
「何が?いつもの木なら見えてるけど」
「いや、そのすぐそこにいるだろ?見えないか、女の子がさ」
女の子・・・?
よく見ると、大木の向こう側に座った白いワンピースタイプの服の女の子が見えた。長い髪が風で木の葉と共に流れる。
夕陽の木漏れ日を照り返す姿が、とても眩しい。
「本当だ・・・見えたよ。あそこでなにしてるんだろ」
「太陽みたいに読書してるってわけでもなさそうだよな・・・」
「なに、なんかあったの?」
草をかき分けて、葵が僕の隣に顔を出す。
「見てみろ、あの木の側の女の子。白い服の子」
「え、どれ?・・・うわぁ、遠目だけど可愛いわね・・・!」
葵が感嘆の溜め息を漏らすと、白い服の女の子は僕たちの視線に気付いたのか、こちらを振り向いた。
「やべ、バレたっ」
「え、ちょ、ちょっとっ。ひゃっ」
和樹の声を合図に三人は同時に草むらから顔を引っ込ませようとするものの、葵は枝が髪の毛に引っ掛かってうまく抜け出せない。
「ちょっとなによこれぇ、もうっ」
「待って葵暴れないで、今取るから」
「おい何やってんだ、もうこっち向かって来るぞっ」
「取れたっ」
間一髪。
葵の髪を枝から取りはがして公園の外まで全力疾走を開始するまでに、白い服の女の子はもうそんなに遠くない距離まで歩いて来ていた。急いでいたのでよくは見えなかったが、彼女は僕たちが去る時、笑っていた。
「はぁ・・・はぁ・・・、笑われてたよ・・・」
「・・・はぁ・・・そりゃ・・・はぁ・・・そうだろ・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ、もう・・・私・・・はぁ・・・だめ・・・」
公園の外を出てしばらく走った駅の踏み切り前で僕たちは足を止めた。
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