第1章-「それ」は突然にやってくる-

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「お待たせしました、こちら『女王様風味のプリンパフェ』になります」 タイミング良く現れた店員が、笑顔でプリンパフェを葵の前に置く。 どうでも良いことだが、女王様風味とはなんだろうか。 「おぉっ」 葵が満面の笑みでパフェを掴み取ると、蜂蜜やらチョコレートやら生クリームやらがふんだんにかけられたそれは、水面を思わせるように揺れた。 スプーンでその一欠片が口に吸い込まれるたび、葵は甘くため息を漏らす。 「余は満足じゃぁ」 「ははっ、女王様ぶってやがる」 「なによ、妬んでるの?小さい男ねぇ。ほら、あんたたちにもあげるから、口開けなさい」 「へへっ、わりぃな」 さっきまで女王様がくわえてたスプーンが、プリンの欠片と共に和樹の口に吸い込まれていく。女王様の手で。 「ほら太陽、あんたも口開けなさい」 「え、僕は良いよ。元々葵が頼んだんだし」 「良いからっ。はい、あーん」 開けた口に進入したスプーンは冷たく、プリンは蜂蜜とチョコレートにコーディネートされていて、口内の温度で焼けるように溶けていった。 「どう、女王様気分は?」 「うん、美味しい」 「良かったな太陽、俺との間接キスなんてレアだぜ」 「吐きそう」 「ちょっとっ!?」 葵が和樹を睨み付ける。 「ははっ、わりぃわりぃ。それにしても、俺を優先するとこ、お前らしいな葵」 「はぁ?なに言ってんの?」 「別に?まぁ早いとこ食って帰ろうぜ」 「そうだね。ほら葵、あと3分で出るよ!」 そう言って僕と和樹は席を立ち上がる。 さっきの店員はそれに気づくと、早足でレジへと向かった。 「えっ、ちょっ、待ちなさいよぉ」 後ろからは葵が必死にプリンをかけ込む音が聴こえる。忙しい女王様だった。
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