第1章

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平成20年2月 一人の男が歩いている。 一歩を踏み出す足がすぐに出てこない。 パーキンソン病特有の症状。 だけど男は歩くことを諦めない。 厳寒の2月 かじかんだ手に息を吹き掛けながら、また歩き出す。 愛する妻の顔を思い出しながら 「会いたい、会いたい」 ただ妻に会いたい。 その一心に突き動かされて… 愛する妻は、総合病院に股関節の手術をして入院中。 自分が病気を患って、ずっと側にいて支え励まし続けてくれていた妻の存在の大きさをこの時になって気づいた男。 妻のいない家は、太陽が消えたようだった。 車の運転も出来なくなった体。 家から妻のいる病院までは、5キロを越えていた。 普通の健康な人でも歩くとなると躊躇してしまうだろう。 まして、歩くことすら困難な体ならなおさら… 息子が父親の体を心配して行くことを止めた。 だが、男の意思は揺るがなかった。 その意思の強さに気づいた息子は、笑って男を送り出す。
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