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病室のドアを静かに開ける。
ビックリしたように振り向く妻。
時計を見ると、11時前
朝の8時頃から家を出て、なんとか午前中に辿り着けたようだ。
「お父さん!」
子供ができてから妻は夫をそう呼ぶようになる。
肩で息をしながら照れ臭そうに男は妻を見つめる。
「どうしても、お前の顔が見たくなってな…
歩いてきたんだ。」
妻の大きな目がますます大きくなる。
「え?歩いてここまで?
無茶するね…お父さん!」
そう言って柔らかく笑った。
そうだ、この柔らかく力強いこの笑顔が見たかったんだ。
「ふーこ、キレイだよ!」
思わず言葉がこぼれ出す。
「バ、バカ!アホな冗談言わないでよ!」
真っ赤な顔の妻の体をそっと抱き締める。
「ほんとだよ、誰よりもお前が可愛い
お前が居なくなって気づくなんてな…
誰よりも大好きだよ。」
胸が締め付けられる。
初めての恋のトキメキのように鼓動が震える。
照れて焦っている妻の唇をそっと塞ぐ。
俺がこれまで生きてこれたのはお前がいたから…
柔らかく力強い笑顔が俺を包んでくれていたんだ
どんなに辛くても、どんなに悲しくても
やっと気づいたよ。
ありがとう
ふーこ。
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