第1章

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病室のドアを静かに開ける。 ビックリしたように振り向く妻。 時計を見ると、11時前 朝の8時頃から家を出て、なんとか午前中に辿り着けたようだ。 「お父さん!」 子供ができてから妻は夫をそう呼ぶようになる。 肩で息をしながら照れ臭そうに男は妻を見つめる。 「どうしても、お前の顔が見たくなってな… 歩いてきたんだ。」 妻の大きな目がますます大きくなる。 「え?歩いてここまで? 無茶するね…お父さん!」 そう言って柔らかく笑った。 そうだ、この柔らかく力強いこの笑顔が見たかったんだ。 「ふーこ、キレイだよ!」 思わず言葉がこぼれ出す。 「バ、バカ!アホな冗談言わないでよ!」 真っ赤な顔の妻の体をそっと抱き締める。 「ほんとだよ、誰よりもお前が可愛い お前が居なくなって気づくなんてな… 誰よりも大好きだよ。」 胸が締め付けられる。 初めての恋のトキメキのように鼓動が震える。 照れて焦っている妻の唇をそっと塞ぐ。 俺がこれまで生きてこれたのはお前がいたから… 柔らかく力強い笑顔が俺を包んでくれていたんだ どんなに辛くても、どんなに悲しくても やっと気づいたよ。 ありがとう ふーこ。
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