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雪のちらつく寒い日のこと。
西本願寺にある新選組の屯所を、とある噂が駆け巡った。
「おい、聞いたか?もうすぐ『ばれんてぃん』とかいう異国の行事があるんだってよ」
「聞いた聞いた。なんでも女が好いた男に菓子を贈るらしいぜ」
「山崎の情報じゃあ京の女は最近そわそわして手作りの菓子を作ってるって話じゃねぇか。」
「で、その『ばれんてぃん』ってなぁいつなんでぃ?」
「それが明後日の十四日らしい」
「なんだってぇ!?こうしちゃいられねぇ。京中の女どもが明後日俺のところに菓子を・・・。屯所に押しかけられちゃあ他の連中に妬かれちまうからな。別の場所に『新八様の菓子受け取り所』なぁんて作っておかないと・・・・て、お前らどこに行くんだよ」
「ん?話は終わったか?新八」
「新八さんの妄想長話に付き合うほど俺たちも暇じゃないんだって。なぁ、左之さん。新八さんはともかく、俺や左之さんはモテるからさ、大変なんだよ」
「ふっ、平助、お前も新八とどっこいどっこいだろ?」
「う・・・うるさいなぁ。新八さんよりはましだって」
新選組の三馬鹿と言われる永倉、藤堂、原田はもちろん、朝からこの話でもちきりだった。
「まぁ・・・左之は確かにモテるよなぁ。顔か!?やっぱり女は左之みたいな男前が好きなのか!?」
永倉は大げさに頭を抱えてその場にしゃがみ込む。
「まぁまぁ、新八。お前のいい所を見て密かに思ってくれてる女もどこかにいるって・・・多分」
苦笑混じりに言いつつぽん、と肩を叩く原田を涙目で恨めしそうに見上げる。
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