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「わっ、ちょ、近藤さん」
驚く土方とその様子を見て笑い転げる沖田に近藤は悪戯っぽくにっと笑った。
「おおっ、総司もいたのか。丁度良かった。ほら、少し早いが『ばれんてぃん』の菓子だ」
小さな包みを一つずつ二人に手渡す。
早速嬉しそうに包みを開け、「わぁっ金平糖だぁ」と一つつまんで口に運ぶ沖田をよそ目に土方は訝しげな表情を浮かべた。
「・・・なぁ・・・近藤さん、『ばれんてぃん』の菓子って・・・?」
「なんだトシ、知らないのか。明後日は『ばれんてぃん』という異国の行事らしいぞ。俺もさっき隊士から聞いてな。急いで買ってきたんだ。なんでも大切な相手に菓子を配る行事と言うじゃないか。異国にも興味深い行事があるものだなぁ。当日隊士全員に配りきれるか分からないからな、配れるところから先に配っておこうと持ってきたしだいだ」
うんうん、とうなずきながら満足そうに笑う近藤に土方は大きくため息をついた。
そして遠慮がちに口を開く。
「な・・・なぁ近藤さん。『ばれんてぃん』って言うのは女が好いている男に菓子を渡す行事でだなぁ・・・」
「なんと、そうだったのか」
それを聞いて近藤子犬の様にあからさまにしょんぼりと眉を下げた。
この顔に弱い土方はどうすればいいか分からず気まずそうにぐっと黙り込む。
「いいじゃないですか、近藤さんらしくて。私は嬉しかったですよ」
そんな二人の様子を今まで見守っていた沖田がまた一つ金平糖を口に放り込みつつ、にこっと近藤に笑いかける。
「総司・・・お前ってやつは」
一瞬目を潤ませた近藤だったが再び視線を落とした。
「だが・・・そうと知ったらみんなに菓子を配るわけにはいかんな。折角の行事、みんなに少しでも楽しんでもらいたかったんだが」
訪れた重い空気に耐えられない沖田は「どうするんですか」と言いたげな顔で土方に目配せするが、何かを考えているようにじっと黙っている。
が、その沈黙を破ったのも土方だった。
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