【一月】かくし芸の天才 

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 一年で最初の太陽が顔を出し、皆が新しい年の始まりに無病息災を願ってそれぞれ寺社仏閣へと足を運びだした頃。  壬生にある新選組の屯所でも新年を祝う挨拶が飛び交っていた。  お飾りと京都ならではの根引松を飾ってはいるものの、一張羅を着るわけでもなくいつもと変わらぬ汚れきった着物を身に着けている。  いつ、何が起こるか分からない為、お正月とはいえ新選組に休みなどない。 それが要因か、心なしか隊士たちの顔は曇っていた。 「はぁ・・・何とかしねぇとな」  そんな隊士たちの様子に溜息を吐いたのは鬼の副長と恐れられる土方歳三だ。  正月といえば一大行事である。  だからこそ、人の多く集う場所では小さな事件が多発するのだ。  その為、新選組隊士たちは朝からいつも以上の見廻りを強要されているわけだが、正月くらいゆっくりと雑煮やおせち料理に舌鼓をうちつつ酒を渇くらいたいと思うのもまた然りだ。  頭を悩ませていると、「入りますよ」と障子越しに声がかかり、沖田総司が入ってきた。 「挨拶が遅れました。明けましておめでとうございます」  そう言う沖田はこれから巡察へ向かうのであろう、だんだらの羽織を身に纏っている。 「おう、明けましておめでとう」  力のない土方の声に、沖田はくすっと小さく笑う。 「新年早々お疲れの様ですね」 「あぁ、お前らもご苦労だな」  自然と溜息を漏れる。  新年の巡察の辛さはやる気だけの問題ではない。  大勢の人が行き交う中をもみくちゃにされながら歩く事にある。 まともに歩く事さえままならないうえ、何かがあってもすぐに駆けつける事が出来ない。 それどころか気付くことが出来るかさえ怪しいのだ。  去年の事を思い出し、年末から一人策を練っていた土方ではあったが、これという案が出てこない。  このままでは去年の二の舞になってしまう。  そう思うと溜息を吐かずにはいられなかった。  と、土方の考えている事が分かったのだろう。 沖田は何かを思いついたように突然目を輝かせ、四つ這いになって前のめりに土方に迫るとこう言った。 「私に任せてもらえませんか?」
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