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「上手くいって良かったですね、土方さん」
夜になり、帰って来た隊士たちの顔は疲れてはいるものの、達成感で満たされ晴れ晴れとしていた。
「あぁ、こんな一石二鳥な策があるとはな。お前もたまにはやるじゃねぇか」
そう言って沖田の背中を叩く土方も、朝のしかめっ面が嘘の様に満足気に笑っている。
無理もない。この日の新選組は誰もが納得の活躍ぶりだった。
すり、食い逃げ、喧嘩に賽銭泥棒まで。
どれも小さな事件ばかりだが、新選組ほどこれらの犯罪を見逃さず捕縛出来た組織は他になかった。
そもそも大きな事件が起きなかった事自体、大きな成果と言えるだろう。
「さてと。私も準備に取り掛かるので土方さんも早く来てくださいね」
楽しそうな沖田に「ん?」と土方は首を傾げた。
「何の準備だ?」
そんな土方にきょとん、と目を丸くして固まった沖田だったが、ぷっと吹き出すと土方の背中を思いっきり叩きながら盛大に笑い始めた。
「土方さん、冗談は止して下さいよ。言ったじゃないですか。この作戦が上手くいったら新年会でもかくし芸大会をしていいって。それで私、張り切って頑張ったんですからね」
しまった、と思った。
確かに沖田がそんな事を言っていたような気がする。
だが、まさかこんな策がここまで上手くいってしまうとは正直思っていなかった土方はすっかり失念していた。
「おいおい、流石に今日は無理だろう。第一他の隊士たちにはこの事を話していない」
焦る土方に対して沖田は余裕の笑顔を見せた。
「大丈夫ですよ。絶対に上手くいくと思っていたので、私が昼の間に伝えておきましたから。皆さんやる気で仕事の間も何をするか考えていましたよ」
こういう時の沖田は行動が早い。
普段では考えられないほど先に手を打つ。
「はぁ、勝手にしろ。ただし、俺は見ているだけだからな。無理矢理何かしろなんて言うんじゃねぇぞ」
「それって言って欲しいって事ですか?」
そう言っておちょくる沖田を無視して土方は背を向けると、ずんずんと廊下に足音を響かせながら歩いて行ってしまった。
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