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「免許証落とすとか、不用心にも程があるぜ。気を付けな」
免許証?この手帳は免許証というのか。一体、何に使う物なんだ?
首を傾げ、黙りこくる私を見かねたかのように、雅臣は
「てか、いつまでこんな寒い所で座ってんだ?家、帰らないの?」
と、たずねる。家?…そういえば、この時代には私の帰る屋敷などどこにもないのだな…。そう思うと哀しみが一気に胸に押し寄せてきた。
「!?おい、泣くなよ!」
「……ッ」
泣き出した私に戸惑い、おろおろしながら、雅臣は、
「ちょっと待ってな」
と、告げるとどこかに駆けて行ってしまった。
涙を見せる事で、あんなに動揺されるなんて思ってもみなかった。
私がいた平安の世では、自らの感情を素直に表すのが男女共に当たり前の事だったから…。
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