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今はそれすら知る事さえ出来ない。会って詫びる事も、文も出せないような遥か遠い世界に、俺は一人来てしまった。
でも、と思う。でも、この世界には、俺が元の時代で失った光景がまだ生き生きと存在している。
頭の中将がいて、葵の上がいて…。
左大臣家の婿として、彼等家族と過ごした時間が、穏やかで幸せだった事に気付いた時、もう側に葵はいなかった…。
取っ組み合いになっている、雅臣とアオイを見つめながら、俺は雅臣の母親に向かって微笑む。
「こういう、何気ない時間が本当は一番幸せなんですよ」
しばらくの沈黙のあと、
「そうね。何気ない日常が一番幸せ」
と、柔らかい日だまりのような笑みが返ってきた。
雅臣の家族を見つめながら、俺は思う。この人達と一緒なら、この見知らぬ世界で、何とかやっていけるかもしれない…と。
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