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玄関に立っているだけで、一際(ひときわ)目を引く雅臣の友人を目にし、私は妻がやたら機嫌がいい理由を悟った。
確かに、まれに見る美形だ。
「すまないね。気付かなくて。君が櫻井君かい?凄いイケメンだねぇ!びっくりしちゃったよ」
と告げる私を、いささか驚いたような目をして見つめる青年に、私は少し、どこか、我々とは異質な空気を感じた。
稀にみる美形のせいか、この世に生きているという生気が感じられない…。まるで、別の時代を生きていたかのような…。
かと言って、恐ろしい雰囲気を醸し出している訳では全くないのだ。
むしろ、遠い昔にほとんどの日本人が失った"もののあはれ“や"匂やかな色気“を一身に纏ったかのような、独特の雰囲気を持つ青年だった。
華やかさも、美しさも、今のアイドルや俳優とは全く次元の違うところにあるといった感じなのだ。
「はじめまして。櫻井光児といいます。よろしくお願いいたします」
そう言ってあまりに爽やかに、美しく笑う青年の向こう側に私は、別の時代を感じた。
そうだ。平安時代…。歴史の教科書や書物でしか知り得ない優美に満ちた時代が、この青年を通して、一瞬だが見えたような気がした。
なぜ、それをこの青年に感じたのかは私もわからない。この青年の顔立ちや、スタイルは、むしろ日本人離れしているに…。
「しばらくゆっくりしていくといいよ。うちは、全然構わないから」
私が青年に、そう告げると、青年は優しげに微笑んだ。
今夜は眠る前に、『源氏物語』を読んでみよう。なぜかわからないけど、そう思った。
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