第1章

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 飛び起きようとしたが、体が重い。横のベッドで直哉も唸っていた。 「二人とも、高熱です!」  御形の母親に、ピシリと言い放たれる。 「学校が」 「この状態で行けるはずがないでしょう!」  高熱は分かっている、だけど、これは病気ではない。 「一穂!」  一穂も学校の筈だったが、ちょこんと顔を出していた。 「一穂、送っていってあげるから、学校に行きますよ」  布団から手を出して、一穂を呼ぶ。一穂はランドセルを背負った状態で中に入ってきた。 「一穂、学校に行くまででいいから、手を握っていて、お願い」 「俺のも、お願い」  一穂は、俺と直哉の手を握っていてくれた。そして、母親に引きずられて一穂が去ってゆく。 「元気、出たな」 「ああ」  一穂の能力も、俺達には謎だが。強いて言うならば、共鳴力。相手に共鳴して、その心や体に共振する。一穂自身の体調が崩れる場合も多いが、今回は助かった。 「温かいな人間の心は」  一穂が、俺達を心配する気持ちに触れ、闇の寒さで震えていた俺達の心が温まった。 「しかし、相手は、人間だよな。俺達、修業が足りないのか?」  メンタルな面で、俺達は弱いのかもしれない。 「人形、取り戻したら、後は逃げよう」  悪霊よりも、厄介な存在だ。逃げるしかないだろう。 「そうだな」  直哉も行く場所がなくなり、御形の家に住んでいる。御形の家には、借りがある状態と感じているので、役には立ちたいのだ。それで、互いに無理してしまう。  無理は禁物、心配を掛けてはいけない。分かっているけど、いつも突っ走ってしまう。  ベッドで眠っていると、携帯電話に御形から遊馬も風邪で休んでいるとの連絡があった。  俺も、直哉も一穂のおかげで元気になっていた。 「行くか?」  直哉もそっと、ベッドを抜け出した。  そっと庭を抜け、バイクを押して移動させる。直哉もバイクの免許を持っていて、最近バイクも購入していた。  二人で、バイクを押したまま寺の外に出ると、エンジンを掛けた。ナビをセットし、遊馬の家へと向かっていた。  遊馬の家へと到着すると、平日だというのに、美容室の駐車場は、車がびっしり止まっていた。店の中には、予約制なのだろうが、待っている人間の姿も見えた。  裏手に回り、玄関のチャイムを鳴らすと、パジャマを着た遊馬が出てきた。 「黒井と雑賀?」  遊馬が出てきたのは、店が忙しく、祖母も店を手伝っているのだそうだ。
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