第1章

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「愛斗が居なくなった場所、確認しに来たんだろ?」  遊馬が家の中を案内してくれた。 「風邪は、大丈夫か?」  遊馬の顔色は悪かった。血の気も無い。 「朝、突然高熱が出た」  なんとなく、俺達の影響が遊馬に行ってしまったらしく、肩身が狭い。 「でも、今は下がったから大丈夫」  サンダルを履き、庭に出てみた。今も、砂場がそのままになっていた。  背に背負っていたリュックから、ペットボトルの水を取り出すと、砂場の過去を見てみた。  愛斗の遊んでいた姿は見えたが、他は何も見ることができなかった。多分、用意されていた映像だけ見ることができたのだろう。  砂場から、店の方を見てみると、ガラス貼りになっていて、確かに誰かが通れば店内で気づいたかもしれない。  反対側を見てみると、壁際にまで建物が迫っていて、通ることはできなかった。  でも、ここは密室ではない。塀の向こうを覗いてみると、隣の家までは距離があった。  塀で仕切られているが、塀の向こうは隣の家の庭に面していた。庭は広く、農家もやっているのか、納屋も見えていた。母屋までは、数件分は離れている。 「子供では、塀は越せませんでしたよ」 「子供、一人ならば越せないだろうけど」  塀の向こうは、昼間ならば畑に出ていただろう。ならば、塀の向こうならば、人目に付かないで移動は可能だった。  愛斗は、連れ去られたのかもしれない。しかも、愛斗は死んでいない。ちゃんと、生きている。それは、この場所で羽を広げてみると分かる。ここには、残留でも思念が無い。人の思いが残っていない。  連れ去って育てている。けれど、今回は人形探しで、人間は探していない。 「今回は、人形を探す」  俺は、踵を返し室内へと戻った。棚に置いてある、他の二体を見たが、異常はなかった。遊馬の部屋に行くと、きっちり整理整頓された優等生の部屋という雰囲気だった。 「いつから、この家に暮らしているの?」  遊馬が、クッキーとコーラを持ってきてくれた。 「母の体調が、俺が三歳の時に悪化して、その時からと聞いています」  ならば、愛斗が消えた時に、遊馬もここで暮らしていたということになる。 「愛斗が消えた時は、母が家に一時帰宅していて、俺はここに居ませんでした」  でも、半年後、遊馬の母は無くなった。 「もしかして、遊馬の人形もあるのか?」
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