第1章

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 遊馬の唇がゆっくりと触れる。俺が目を閉じると、床に押し倒された拍子に、頭を打った。ゴツンという鈍い音に、互いに笑いが漏れる。そして、俺の頭は遊馬の手で保護されて、又、唇が合された。やさしい、遊馬らしいキスだった。  しかし、次の瞬間、ドアが勢いよく開いた。が、誰も居なかった。窓がガタガタと揺れ、机が勝手に移動した。ベッドの布団が、跳ね上がり落ちた。 「凄いね、ポルターガイスト?」  直哉がのんびりと、部屋の中を観察していた。 「監視しているね、やっぱり」  盗聴とかではなく、霊能力?で監視しているのかもしれない。 「…真里谷かな?」  真里谷以外には居ないだろう。でも、相手が霊能力者ならば、専門家が居る。 「黒井、今度続きさせて」  強気の遊馬に、俺は吹き出しそうになったが、それ以上に、今度は部屋の外の木々が、折れるばかりに揺れ出した。 「かなり、強いね」  部屋の中に、結界を張っていたのだ。俺に悪意があるものは入る事ができない筈。ということは、外の悪霊のような存在は、俺に対して悪意があるらしい。 「ついでに言っておくけど、俺は真里谷が愛斗だと踏んでいる。そして、愛斗が人形を遠ざけたのは、遊馬が人形に憎しみとか愛情を注いで弱ってしまっていたからだ。つまり、遊馬を守るためだ」  真里谷の異常なまでの、遊馬に対する好意。そこに鍵があると思うが、俺も無理はできない。 「俺は、人形を探す」  言葉にして自分を説得する。今回は、人形を探すことに集中する。  でも、愛斗の居た空間を見て思う。愛斗が消えたのも、多分、遊馬を守るためだったのだ。  存在悪、望まなくても周囲を不幸にしてしまう能力。他人の不幸により、自分に多大な利益や幸福をもたらしてしまう能力。  そんな能力を持って生まれた、愛斗とはどんな人間なのだろう。  俺達は、遊馬の家を去った。  俺達は御形の家に戻ると、そっと、庭から忍び込み、ずっと眠っていたかのようにベッドに戻る。 「典史兄ちゃん、直哉兄ちゃん。おかえりなさい」  一穂が、廊下で見張っていたらしい。 「お母さんに言ったか?」 「告げ口はしていません!」  とりあえず胸を撫ぜ降ろす。御形の家では、母親が最強だった。 「手を握っていてなんて、すごく心配でボク学校でもすごく心配していた」  一穂が怒っている。怒るのは当然かもしれない。 「ごめんなさい」
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