第1章

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「とにかく一緒に行く」  直哉の根気に負けて、一緒に行く事になってしまった。  早朝、直哉の透視した人形の在り処までは、遠かったので、始発の電車で向かうことにしていた。始発で出発したとしても、乗継ながらの移動で、昼過ぎの到着が見込まれている。  まだ明けていない空の下、御形の家を出ようとすると、御形の母親が立っていた。 「朝食よ」  巨大な弁当を渡された。ずっしりと重い何かが入っている。しかも、お重並みに大きい。 「遠足に行くわけでは、ないのですが…」 「行ってらっしゃい」  ニコニコとしているが、反論は許して貰えない。 「行ってきます」  かなり重い朝食を、リュックに入れると駅へと向かった。  電車に乗り、少しでも荷物を軽くするかと、開いた朝食は、豪華だった。まるで運動会のお弁当。しかも、とても二人分には見えない。  下段にいなり寿司、上段にはから揚げやらサラダ、他色々と入っていた。一体何時から弁当を作っていたのだろうか、いなり寿司もから揚げも温かかった。 「いただきます」  とてもおいしい。親の愛情は様々あって、きっと一様ではない。けれど、こうして手作りの弁当を食べていると、おいしいものを食べさせたいという優しい愛情を感じる。 「ありがたいな」  直哉も、弁当をしみじみと食べていた。  乗り換えを繰り返し、最寄りの駅に到着すると、既に昼はまわっていた。駅からバスに乗り、まだ移動する。  周囲は畑や田んぼが多くなり、民家の数が減少していった。バス停に降りると、そこは本当にバス停しかなく、近くにコンビニどころか民家さえなかった。  誰が使用するバス停なのだろうか?少し歩いてみると、夢に出ていた、棚田が見えてきた。  斜面に連なる棚田の先、海が見えていた。棚田の中を細い道が一本ある。夢の中では、この道を男が歩いていた。  管理が大変なのだろうが、棚田を見ていると、よき日本を見ているようだった。工夫と努力で生きているような感じだ。  夢の通りに歩いてみたが、そこにアトリエは無かった。 「どこだ?」  直哉が周囲を透視していた。 「少し、場所がズレている」  アトリエと思しき建物は無いが、そこには大きなホテルが建っていた。リゾートホテルのようだが、棚田の景観をかなり損ねていた。   大きなプールもあり、道路に面して駐車場も備えている。 「敷地内だな」
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