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ホテルの庭を抜け、海へと向かうと、そこに物置のような建物を発見した。人が見ていない事を確認すると、そっと物置の中に入って見た。
この物置は、ホテルのものではない。中には古びた農機具が入っていた。そこに、不思議なドアを発見した、物置で隠した、玄関のようなものだが、入口以外は建物が存在していなかった。
ドアを開けようとしたが、鍵がかかっていた。良く見ると呼び鈴があったので、慣らしてみる。
「どなた?」
返事があるとは、思わなかったので、何と言おうか考えていなかった。
「あの、人形を探しにきました」
どう考えても、不審な内容だった。
「そうか、入って」
ドアの鍵が、カチリと鳴った。ドアを開くと、中は階段へと続いていた。階段は、人を感知すると、次々と足元の明かりがついてゆく。奥へ、下へと向かってゆくと、開いたままのドアから、海を一望する部屋とへ抜けていた。
「いらっしゃい、待っていたよ」
若い男が、イスに座って海を見ていた。
「あの、待っていたというのは?」
男は、振り返りもしなかった。部屋は、居間らしく、暖炉や棚があるが、テレビのようなものは無い。代わりに巨大な草原の絵が掛けられていた。草原を辿ってゆくと海に抜けるように見えた。
「人形に言われたのさ、もうすぐ迎えが来るから帰るとね」
男は、白い服を着ているが、あちこちに絵具が付いていた。作業服のようなものなのかもしれない。
「その前に、もう少し見て行って。海を」
しかし、見えてきたのは海ではなく、過去のようだった。
絵画で賞を取り、やっと絵が売れるようになった。長年苦労をかけた女性と、結婚が認められる。ずっとずっと好きだった女性、この笑顔があれば他には何も要らない。けれど、女性の笑顔に陰りが見えた、子供が出来ない。ノイローゼになってゆく女性、でも、二人でもいい、三人になったら、三人でもいい、この土地を買いノイローゼと向き合った。
沢山、女性の肖像画を描く。生活の為に、絵も描いた。自分には描く事しかできない。二人きりの生活の中、女性は子供が出来たと言った。
再び笑顔が戻ってきた、思い込みでもいい、幻でもいい、笑顔が見ていられるのなら。しかし、終わりがやってきた。
女性は、病院の帰り、海へと飛び込んだ。
「霊なのか、どこに居るかな」
俺は霊が見えないが、女性はきっとこの部屋に居る。
「絵の前とか」
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