第1章

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「それから、闇の奴、蓮からも聞いたけど、えっと真里谷で合っているか?彼には係るな。俺達の手に負えるモノではない。俺も、霊ならば大丈夫だけれど、人間は相手にできない」  それは自分でも分かっているのだけれど、係らずに居られない感じもしていた。 「と、言ってもきかないよな。真里谷の弱点は、話を聞く限りでは、遊馬だろうな。鍵も遊馬だ。忠告すると、真里谷は存在悪だ、決して善にはならない。善にならないは絶対だ。けれど、遊馬に対してのみ、その存在は揺らいでいる」  玲二に何度も係るなと念を押されたが、存在悪の説明もしてくれた。生まれながらに、運と、運を得るための能力を持った者。周囲に於いては別格の存在で、一人が存在すると周囲で百人は死ぬとも言われる。死だけではなく、不幸が次々とやってくるが、本人は嵐の中心部のように被害に遭わず、利益を得る。  存在悪が目的を持つと又厄介で、戦乱のような現象が起きる。  玲二の係った存在悪は、大会社の社長であり、利益をボランティアに寄贈する、出来た人間だった。しかし、裏の面では、彼のせいで家族は死に、仲間が死に、危険地帯を視察に行き関係者も死んだ。善の為に戦うと言いながら、周囲は不幸にしかならなかった。  天使でも孤立しがちな世界に於いては、存在悪の人間的魅力には逆らえない。けれど、遊馬は断ったのだ。多分、遊馬が鍵なのだ。 「ありがとうございます。玲二さん」 「あぁ、でも、全然分かってねえな…」  うんざりと玲二が溜息を漏らす。  俺はバイクに乗り、御形の家へと戻った。駐車場にバイクを停めていると、自転車が一台あった。俺も直哉も、自転車も持っているが、俺達のではない。  誰か来ているのかなと周囲を見ると、遊馬の姿を見つけた。 「遊馬!」  遊馬が振り返る、御形とは違うタイプだけれども爽やかな好少年だ。 「黒井」  遊馬が、俺の姿を見つけて微笑む。遊馬の笑顔は、天使でもちょっと見惚れる温かさだった。 「遊馬、俺に話があるのか?」  多分、聞かせられない話なのだろう。遊馬が俯いてうなずく。 「部屋、来いよ」  庭からそっと部屋に入る。日中は玄関から出入りしなさいと言われているが、遊馬が何か深刻そうだった。  座布団を出し、テーブルの前に座らせる。部屋には、冷蔵庫はなかったので、常温だがペットボトルの水を出した。
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