第1章

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「多分、真里谷には見えていなかったろうけど、察知はされたな…」  このまま、係らなければいいのに、と、頭では分かっている。 「黒井、遊馬が好きなのか?」 「分からないけど、惹かれてはいる」  今更、嘘を言っても仕方がない。  御形は、真剣な表情で俺を見つめると、そのまま部屋を出て行った。  次の日、学校に行くと、前の席の荒川が欠席になっていた。季節外れのインフルエンザにかかり、結構重症とのことだった。次に担任が、階段から落ち、足の骨を折った。  余り喋った事がないが、隣の席の鈴木が自転車を滑らせ土手から転落、救急車で運ばれる程の重体となった。  俺の周囲が、次々と去って行った。帰りの電車で、御形と会ったが、目を合わさずに言葉も交わさなかった。  夕食の後に、久し振りに実家の手伝いをしていると、母が何度もため息をついていた。 「典史、また、変な事件に首を突っ込んでいるでしょう…」  修業中の見習いが、風邪をこじらせ肺炎となり入院していた。他に、予約していた客が、突然死した。 「禍は、弱い者からかかってしまうのよ。だから、強者は注意しなくてはならない」  母が、俺の何かを霊視していた。家には巨大な祭壇があるが、そこに供えられた蝋燭の火が、次々に消えてゆく。 「母さん、ごめん」  母が、祭壇に祈りを捧げている最中に、蝋燭は全て消え、電気まで消えてしまった。 「私ならば大丈夫。私には、どんなに暗闇があったとしても、天使の光が見えているから。母が子を思う気持ちは、どんな繋がりよりも強いのよ」  母がふくよかに笑う。これは、真里谷に聞かせているのかもしれない。 「貴方も母の元に帰りなさい。無限であり、無償の愛情は、貴方にも在るのよ」  母は強い。それから、俺は、みっちり仕事ではなく修業をさせられてしまった。祭壇の掃除から、清め方、人間に対しての結界の張り方等々。  真夜中には解放されたが、くたくたで帰途に付いた。  弱っているところに、会いたくない者は現れるものかもしれない。  御形の敷地内に、黒いシルエットを見つけた。影よりも濃い闇。  道に佇んでいたが、顔を上げてこちらを見た。 「真里谷か?」  黒い瞳に、黒い髪。知的な顔立ちで、背は俺よりもやや高い。何かスポーツをしているような、ムダのない体型をしていた。
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