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想像していた真里谷は、やんちゃな子供のような人物だった。ややイメージが異なるが。別格の貫録を持った人物はそうそう居るものではないだろう。
「君たちは、死んだら記憶から消えるのだろう?」
この世界ではないものは、この世界から消えた瞬間に、全ての記憶から消える。
「そうかもしれないね」
「幸せでも、記憶から消えてしまうのならば、最初から無い方がいいと思うだろう」
砂利の上を歩いているのか、足音が近付いてきた。足音で、そこに実体があると分かる。年は同じくらいだというのに、まるで政治家かヤクザのような、イレギュラーな存在感と絶対的な威圧感。
「最初から、この世界のものは消える運命を持っている。流れ星のようなものだ、生命の全ては光り熱くなり消えてゆく。君も同じだろう」
手の届く距離で、真里谷が立っていた。真里谷の言葉を肯定したら、自分の存在を消されてしまいそうだった。
「最初から無い方がいい。消えてしまうのなら」
俺の首に手が掛かっていた。確かに、俺もイレギュラーだ、皆の記憶から消されてしまうかもしれない。生きていた、存在していた全てを消されてしまうかもしれない。でも、色々な係った人々の姿が浮かぶ、俺は、それでも、ここに存在していた事に後悔はない。
「無くなることなんてないよ。黒井が消えたとしても、御形の家の者は決して忘れない。黒井の母も決して忘れない。俺も、黒井を忘れる事なんてない、魂に刻んでいるからだ」
御形が、後ろに立っていた。月夜に映える御形の姿は、清廉としていて迷いが吹っ切れたようだった。
「言葉だけだろう」
真里谷が鼻で笑う。
「天使と付き合うのだぞ。覚悟がなければ一緒になんか居られない。俺の魂には、黒井が刻まれている」
真里谷の手に力が込められた。ガツンとした衝撃の後、俺は、宇宙空間に居た。また、飛ばされたのか。ちょっとうんざりして、地球を探すと、眼下に青い地球が見えていた。ありきたりの表現しか出来ないが、地球の孤独は人の上をゆく。
こんな広い宇宙で、生命の何と孤独なことなのだろう。
だから、御形の手が俺の腕を掴む、その温もりには魂が救われる。
「世界から黒井が消えたとしても、俺は絶対に見つける」
人の思いは、何よりも強くて、世界を変える。
「黒井は俺のものだ。誰にも奪わせない」
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