第1章

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 御形に引き寄せられて、抱き寄せられる。俺は驚いて、周囲を見てから、御形の真剣な顔を凝視した。  今、宇宙空間にまで、御形は手を伸ばしていたぞ。  御形の胸が温かい、感じる鼓動が俺の全てのような気がする。 「御形、ちょっと腕を緩めて」  俺は、少し体の向きを変えた。羽を広げ、実体化する。 「ちょっとだけ、行ってくる。必ず戻る」  羽を広げた状態で、鞄に入れていたペットボトルを取り出す。動揺している真里谷を、羽で囲むように閉じ込め、抱き付いてみた。  真里谷の過去が見えてきた。  初めて見た遊馬、母親から離され不安気に座っていた。けれど、自分が母の療養の邪魔になったと自覚し、不安だろうが、泣きはしなかった。  笑顔が見たかった。どうしても、笑顔が欲しかった。  望み通りに遊馬の笑顔を見られるようになった途端に、遊馬の母の容体が安定し、戻っていってしまった。  自分から遊馬を取り上げるのならば、死んでしまえばいい。  既に悪い願いは、叶うと知っていた。遊馬から、母を奪ってしまったのは、自分だった。 遊馬を不幸にする前に、自分が消えてしまおうと思った。願いは叶う。愛斗は、真里谷 神威(まりや かむい)として生き始めた。けれど、どうしても、遊馬に会いたかった。遊馬だけが全てだった。これは、恋でもあり、たった一つだけの愛だった。真里谷は、他に一切の愛情が無かった。 「遊馬だけか」  羽で結界を張っていたが、見事にどこか知らない場所に飛ばされていた。 「そう、遊馬だけだ」  ここは何処だ?目が慣れてくると、暗闇の中に湖が見えてきた。正確に言うと、足の下にも湖が見えていた。まだ落ちてはいないが、いずれは落ちてしまいそうだった。先ほどの宇宙よりかは、飛ばされていない方だが、それでも水が冷たそうで、落ちたくはない。 「遊馬と友達関係だったならば、一生付き合えただろう」 「迷ったよ、けれど、どうしても触れたかった」  靴に水が触れていた。落ちるのは嫌だ。 「あの、元の場所に戻してくれないかな」  一応、頼んでみた。 「俺は、遊馬が惹かれる君をここで殺してしまいたいよ」  痴情のもつれで殺されるというのは、避けたい殺され方だった。 「俺の羽の中の結界は、そこが俺の世界で俺が主という世界の構成だ。真里谷、消してもいいかな」  真里谷と睨み合う。 「痛み分けだ」
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