第1章

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 真里谷が消えると同時に、何かに弾かれた。そして、木にぶつかったと思うと、落下していた。  地面に激突するかと思ったが、そこには支える腕があった。 「黒井。大丈夫か?」  御形の腕だった。俺は、御形の首に手を回し、肩に顔を埋めた。御形が俺の頭に手を添える。宇宙にまで手を伸ばすバカだこいつは、奇跡なんて何一つ無い世界で、俺にとっての奇跡の存在。 「俺は、真里谷の気持ちが分かるよ。黒井が好きだ。黒井が惹かれる者に嫉妬する…」  真里谷は、愛斗だ。愛斗は、三歳の頃から遊馬だけを思っていた。三歳、初恋で最後の恋というには、あまりに幼い。けれど、人間離れしている真里谷ならば、それもあるのかもしれない。 「黒井、キスさせて」  今回は、御形に助けられたと思う。頬を包むこの御形の手の温もり。 「遊馬が、孤独過ぎて放っておけない」 「ここで、他の男のことを言うかな…でも、黒井らしいや嘘をつけない」  合わされた唇が、何か言葉を刻んでいた。 『もっと触れたい』  舌が入り込んで来るのを、目を閉じて感じ取る。敏感になっている体は、御形の手の動きに反応する。  体が合わされば、心が合されたように感じるものか。どこか、冷静に自分を見ている自分が居る。 『もっと、もっと触れたい』  真里谷も同じか。ただ恋しただけだ。 「なあ、御形。真里谷は、真里谷の恋がもしも実ったら、要求はエスカレートするのかな?」  触れたら抱き合いたい、抱いたら繋がりたいというように。  御形が、俺の肩にキスを何度もする。 「世界で唯一の宝物に嫌われたくなくて、手が出せない子供だよ、真里谷は」  宝物なら、どこかに隠すかもしれない。誰にも分からないどこか。 「俺も、黒井を御形の家に閉じ込めたかった。でも、互いに歩むという姿勢と、未来があれば、一緒に生きていける」  でも、真里谷には計り知れない力があった。真里谷は、遊馬を手に入れたら、他は全て殺してもいいと思うかもしれない。そして、その願いは思っただけで叶うのだ。  御形のキスが、背に降りてきた。ここ、外だよな。俺は、上に着ていたものが、かろうじて腕に引っかかっているだけで、上半身が裸になっていた。下は履いているが、ベルトが外されていた。 「…ストップ」  野外でなんて恰好をさせるのだ。
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