第1章

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 俺は、存在悪というものが何なのか、思い知った。御形家に一番近い家で、葬式ができた。蓮の占いの館には、連日、行方不明の捜索が舞い込んできた。  その行方不明者は、かつて占い(過去視や千里眼)で助かった人々で、やがて集団自殺で発見された。  母の霊能力者家業も大変らしく、かつて納まった霊障が、次々復活していっているらしい。  多分、真里谷が、助ける、助かるという行為を否定したのだ。  真里谷の居所を調べていると、真里谷を育てていたのは、子を失った女性だった。他に幾人もが、真里谷の周囲に信者のように集まっていた。  真里谷と戦うことは避けたい。何故ならば、真里谷は躊躇無く、人を殺してゆくからだ。真里谷を押さえることができるのは、唯一の愛、遊馬しかないのかもしれない。  でも、遊馬を犠牲にしたくなかった。遊馬は充分に犠牲になってきたのだから。 第五章 平行線の均衡  俺は霊能力者の母と、祖母の仕事の手伝いを再開した。単に、霊障が増えてしまって、猫の手も借りたい状況になってしまったのだ。  平行して、御形に持ち込まれる霊障の品々も増えた。この解決にも追われるはめになった。真里谷は大人しくしているらしく、その後接触は無かった。  御形が改めて真里谷の調査を行うと、やっと存在を掴めた。真里谷は、地域でも有名な私立の進学校に通い、しかも成績がトップクラスだった。真里谷は、すぐに素性を隠してしまうが、何もしていない時は、ちゃんと学校に通い、真面目に生活していた。  その日、母の信者?に異変があったと連絡を受け、実家に戻ると、沢山の子供が居た。もしもの時の訓練ということで、今まで係った家の子供たちに、無償で祓いの方法を伝授しているとのことだった。  遠巻きに見ていると、若い女性も混じっていた。見覚えがあると凝視していると、阿久津の家の次女の沙耶だった。真剣に、何かを祈っていた。 「あの、阿久津 沙耶さん?」  声を掛けてみると、俺の事を覚えていた。俺が黒井の息子だと教えると、そういえば名字が一緒ねと、少し笑っていた。 「何か、ありましたか?」  沙耶に事情を聞くと、愛斗人形を最初に持ち出して捨ててしまったのは、沙耶だった。 愛斗ばかりを気にかけて泣く母の芳江が、心底嫌だった時期があったのだそうだ。
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