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当時、芳江の美容室はやっと顧客が安定し、軌道にのったところだった。軌道に乗るまでには、朝も夜中でも無理をして営業し、客のニーズに応えていたせいで、子供の世話ができずに、芳江の母が同居し家事をしていた。
長女十五歳、次女十四歳と、末っ子の五歳はやや年が離れていた。店が、軌道に乗ったところに出来た子供で、本当に可愛かった。これからは、面倒を見ることができると、庭の一角を改造し、遊び場を作って遊ばせていた。
隣とは大人の肩程の塀があり、建物は、表通りに美容室、裏手と二・三階部分を住居としていた。裏手に、あそび場として囲いを造り、砂場と、芝生の上に滑り台があった。芝生は突き出ていた風呂場へと繋がり、風呂場の前に洗濯物の干場があった。反対側は囲いがあったが、表の店へと抜けていて、店は、洗濯の干し場は見えないが、庭の花々が見えるような造りにしていた。
祖母が洗濯を干しながら、愛斗の面倒を見ていた。店には客が、四人程来ていた。愛斗は、砂場で山を造っていた。
祖母が、次の洗濯を取りに行った、その僅かな時間に愛斗は消えていた。
店の店員も、客も、芳江も、愛斗の姿は見ていなかった。
それから十一年、愛斗は見つかっていない。
「人形は、まるで愛斗のようです。消えてしまう」
人形は、母親芳江が生み出した幻ではないのかと、俺の能力、水を媒体にして過去を見るをやってみると、嘘は言っていなかった。
鍵の掛かった扉の中に、男の子を模写した人形は確かに在った。
「男の子、もう一人居ますよね」
芳江の過去の中には、もう一人男の子が居た。心配そうに、芳江を見守っている子供。
「ええ、妹の子を預かっています。妹は、愛斗が居なくなった半年後に病で世を去りました」
この男の子、どこかで見覚えがあった。直哉をチラリと見ると、メモに名前を書いてくれた。直哉には、千里眼という能力があった。
遊馬 真言(あすま まこと)同じ学校で、同じ学年に居る。世間は狭い。そもそも、御形の寺に来るのだから、そう遠くからは来ていなかったのかもしれないが、それでも、同じ高校というのは近い。
遊馬は真面目な性格で、確かバレーボール部に属していた。あまり接点はなかったが、互いに存在位は知っているだろう。
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