第1章

30/55
前へ
/55ページ
次へ
 沙耶は、愛斗人形をゴミ捨て場に捨てた。クラスメートがフリーマーケットで購入したと、愛斗人形を家に飾っていた。その家が、急に引っ越すことになり、人形は通っていた美容室に飾って欲しいと持ち込まれた。美容室は阿久津の家だった。  沙耶は愛斗人形が怖かった。又、実家に戻ったと知って、怖くて眠れなくなったのだそうだ。 「天使の羽。差し上げますよ。不安が消えるまで持ち歩くといいですよ」  俺は自分の羽を、沙耶に持たせた。効果が出るとは限らないが、悪意のある者からは避けられるだろう。 「私にも頂けませんか?」  阿久津の長女の絢香も現れた。俺の背が禿げてしまうだろうと思いつつも、手に羽を握らせた。  絢香も、愛斗人形を捨てた過去を持っていた。 「愛斗は本当に両親の宝でした。両親は私たちとはくらべものにならない程、愛斗に愛情を注いでいました」  そういえば阿久津家は、父親の存在も希薄だった。まだ一度も見ていない。 「遊馬のことを、どうして引き取ったのでしょうか?」 「遊馬?母の妹はいつも病弱で、病気の度に真言は来ていました。祖母と私たちの母が、最初から育てたと言っても過言ではないくらいです」  絢香からは、遊馬に対する思いやりが感じられなかった。遊馬が邪魔な存在だったのかもしれない。 「愛斗がまた、真言を自分の持ち物のように扱っていました。愛斗は少しでも、真言の姿が見えないと癇癪を起こし、真言の横でないと寝ませんでした」 「愛斗の癇癪を一手に引き受ける存在として、真言は存在していました。その時になって私たちも、真言が可哀想で、愛おしくなりました」  この姉妹、愛情と憎しみが複雑だが、ある意味では、遊馬を可愛がっているのかもしれない。 「愛斗が居なくなってからは、私たちの親の癇癪を真言が一身に受けていました。私たちその姿を見て、本当の姉弟になったように感じました」  可哀想で愛おしい、そして自分を守る為に居なくてはならない存在。 「誤解しないでくださいね。私たち、真言を守っています」  遊馬の笑顔が、姉妹にとっても安らぎなのだそうだ。遊馬のために、愛斗は居なくてもいいと願っていた。  家族は複雑で分からない。ちなみに、阿久津の父親は、現在は単身赴任中だった。  母のいいつけで、子供のお守りをすると、御形の家に戻った。御形の家では、蔵に納まっている、写真に異変が起きていた。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

107人が本棚に入れています
本棚に追加