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亡くなった少女を、病室で最後に撮った写真で、髪が伸び続けていた。撮った時点では、肩までだったのに、今では腰までの髪になっている。
少女の親が、写真を見ては泣いていた。
俺は溜息を付いた。これは嘘だ。過去を見るまでもない。
「この子は小児癌ですよね。肌の色、むくみから察するに、ひどい嘔吐もあった。そして、副作用で髪の毛が無かった」
肩までは嘘だ。この子は髪が無かった。
「ありましたよ、肩まで」
再度、写真を見つめる。数本は肩まであったのかもしれない。
「髪が欲しいと願っているのに、写真なんて撮って。せめて帽子を被っている時にしてあげれば良かったのに。その気持ちを訴える写真です。マジックで帽子を描いてあげるか、燃やしてあげてください」
燃やせないという、可哀想でマジックペンで帽子を描くのも却下だという。ならば、と、髪で帽子を造り、写真の上に置いてみた。
『ありがとう』
テーブルに文字が浮かびあがる。物理的に交信してくれたので、助かった。
『パパ、ママ大嫌い』
霊になってまで、親子喧嘩をしないで欲しい。
「どうして…」
なまじ霊なだけに、言われるとショックが大きい。
『髪がなかったのに、不細工だったのに』
「私たちには、いつも可愛い娘に見えたのよ。ずっときれいな顔だった」
親の思いもなかなか伝わらないものだ。親子喧嘩から仲直りした時、どうやら少女は成仏したらしい。俺は霊が見えないので、成仏したかは確認できない。ただ、最後に光が見えたとは言っていた。
「黒井、次もあるのだけど」
直哉も、部屋で行き倒れのようになっていた。真里谷のせいで、霊障だらけになってしまっている。
「ちょっと空に登ってくる」
これでは体が幾つあっても足りない。俺は、庭で羽を出すと、夜空へと飛び立った。
夜空で、羽を千切ると、振りまく。無差別だが、羽を持った、あるいは羽の近くでは、やさしい時間が流れるだろう。霊ならば、羽の光で、本当の光を思い出して欲しい。人も本来の力を思い出して欲しい。羽はその一歩の勇気となればいい。
御形の庭に戻ると、御形が庭に立ったままで待っていた。
「羽、無いな」
翼はあるが、まるで、手羽先のようになっていた。羽毛が無い。暫く、使い物にはならないが、街には光が増していた。
羽ならば又生える。
「寒いだろ、それ」
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