第1章

32/55
前へ
/55ページ
次へ
 羽毛として使用していたのではないので、寒いというものではない。ダウンのコートというわけではないのだ。 「寒いというわけではないけど、スカスカするな」  実体化を解けば、光の羽だ。見た目にも問題はない。 「やさしいな、黒井は」  背中が温かい、御形が後ろから抱きしめているからだ。 「御形、ここ庭だろう。家族が見ているって」  俺は慌てて、御形を振り払い、家の中へと戻っていった。  夜歩く招き猫、酔っぱらった亭主が、毎回持ち歩いたと判明。過去視をムダな事に使用してしまった。  床の下の声。俺には全く聞こえないので、本当の霊の仕業のようだった。念のため、床下を掘ってみると、壺が出てきたという。御形に納められた壺の中には、梅干しが入っていた。梅干しは関係無いかと思ったが、この梅干しの周囲には、絶えず声がしているようだった。 「悪いものではない」  皆元気で健康で、干しに込められた思いなのだろう。梅干しを完食すれば、恐らく成仏して消える。  霊障は徐々に減ってきた。  学校のグランドで、遊馬とばったり会った。遊馬は元気だったが、バレーボール部の顧問が病気で倒れ療養中、主将が事故で入院中となっていた。どちらも、遊馬を可愛がっていたので、真里谷の嫉妬かもしれない。 「黒井、バレーボールやらないか?」  俺は、結構忙しい。 「俺、中学はバスケット部だった。球技ではあるけどちょっと違うよな」  縁石に座って、ついつい話し込んでしまう。阿久津の家は、今も忙しいが、祖母の体調が良くない。時々激しく咳き込み、時折寝込むようになった。 「真里谷は愛斗だろう。祖母が元気なうちに名乗ってくれないかな」  祖母が元気なうちに、事件解決といきたい。その気持ちは分かるが、真里谷は祖母のためでは動かない。  望みがあるとすれば、遊馬が、真里谷に頼めば、その願いは叶うもかもしれない。 「遊馬、真里谷に頼んでみるか?」  真里谷の居場所ならば、突き止めている。 「やってみるか」  軽く言っていたが、遊馬も覚悟はあったのかと思う。  事前に調査していた真里谷の自宅に向かうと、そこはビルになっていた。一階はコンビニになっていて、二階には怪しい看板で宗教法人とあった。最上階の六階が真里谷の住居で、昇ろうとしたが、エレベータが承認制になっていた。  諦めて帰ろうかとも思ったが、真里谷ならば来ることなんて見えていただろう。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

107人が本棚に入れています
本棚に追加